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『殉国』吉村昭 沖縄戦のリアル

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吉村昭と『殉国』

 吉村さんがこの作品を書いたときは、まだ沖縄はアメリカに占領された状態にあり、使用通貨はドル、道路は右側走行だったといいます。吉村さんは昭和42年(1967年)沖縄に1ヶ月滞在し90名近い人達に会うことを続けたそうです。

 それらの人のなかで、吉村さんは、「国吉真一」という人に強い関心を抱き、彼を小説の主人公にしようと決めます。

 国吉さんは「なぜ周囲の人ばかり死んで、私だけが生きているのか、不思議でなりませんでした」と首を傾げていたそうです。「級友はほとんど死んで、私だけが生きていることが申し訳なく、後暗い気がしています」と語ったと言います。

 彼は米兵に捕まった後、比嘉(国吉)少年はハワイに送られました。戦後、沖縄に還され、年月を経て、吉村昭氏と出会います。彼が死んでいたら、彼の体験した事実は吉村氏を通じて世に残ることはありませんでした。

 吉村さんは、自身のストーリーをフィクションだと言っていますが、吉村さんの史実ものの作品は、小説や創作ではなく、極めてノンフィクションに近いとわたしは考えます。吉村さんの採る、戦争に対する、肯定も否定もせず、その場にいた人達の抱いていた感情や熱気や置かれた状況を聴いた通りに作品にする姿勢こそ、正しい史実記載への姿勢だと思います。

 戦前の沖縄の写真です。この沖縄が『殉国』の舞台です。

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『殉国』陸軍二等兵比嘉真一 

 では、ここから、『殉国』陸軍二等兵比嘉真一です。だいたいのあらすじを一気に書くので細かい違いはありますが、御勘弁ください。

 

 昭和20年3月、沖縄。中学生比嘉真一のもとに召集令状が届く。「やった。戦いたかったんだ。もう子どもじゃない。米軍を皆殺しにしてやる。爆薬を抱えて米軍戦車につっこんでやる」鼻息荒く戦場へ向かった。

殉国だ、靖国に祭られてやるぞ!

 比嘉少年は将校の指示で竹槍を作る。その竹槍を持って海に出た。米軍の沖縄上陸を阻止するためだ。海を見渡せる丘に来て、比嘉少年は戦慄を覚えた。海は米軍艦に埋め尽くされていた。軍艦が浮かんでいるんじゃない。軍艦の間に海が少し見える程度。「やってやるぞ。武勲を立てて死に、靖国に祭られてやるとも!」

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 ついに敵が上陸してきた。すさまじい攻撃に負傷者が続出する。比嘉少年は、負傷者を担架に乗せて陸軍病院壕に運ぶ任務に就いた。今、担架に乗せている伍長は、右腕がなく大量の血を流して死んでいた。死んでいるのに運んでも仕方がないが、そのあたりに捨てるわけにも行かず、命令通り病院壕に運んだ。病院壕はむごい負傷者ばかりだった。両手足がなく虫のようにうごめいている者、火炎放射器にやられたのか、全身焼けただれている者が大勢いた。排泄物や膿の腐臭もすごかった。比嘉少年は死んだ伍長を上官に見せた。そして、上官の指示通り遺体を裏に埋めた。

病院壕で働く日々

  病院壕の中は暑い。湿気もひどく虱が大量に発生している。腹の調子が良くない。便が近くなるが、病院壕内の便所は大量の蛆がうごめき、蠅が音を立てて飛んでいた。

 負傷者が続々と運び込まれた。膿んだ傷からおびただしい蛆が湧き出ている。ピンセットで取ってやろうにも、蛆は肉の奥底にもぐりこみ容易に取ることができない。日本軍有利の情報は大量に寄せられるのだが、比嘉少年の脳裏には、海面を埋め尽くしている米軍艦がこびりついている。ちっとも友軍機がこないじゃないか。

 病院壕は負傷者で充満し、死体も埋めることができなくなり、そのまま壕外に投げ捨てられるようになった。「俺は弾を一撃も撃っていない。どうせ死ぬ。みんな死ぬんだ。だったら、こんなところにいたくない。一人でも多くの米軍兵を道連れにしたい」と、上官に頼んだが許可は下りない。病院壕での任務も大切な仕事だ、と言われる。

 ある日、壕の近くで爆撃があった。いつも一緒にいた友人が2人死んだ。内臓をはみ出させ、顔の半分が吹きとばされていた。「仇は必ず取ってやる」比嘉少年の中に熱いものがこみ上げてきた。

 とうとう敵兵の姿を見た。戦車も来た。この病院壕も後方に移動することになった。歩ける者は連れていく。重傷者は放置せざるを得ない。後方に移動といってもここは沖縄、島国だ。これ以上下がっても意味ないのでは?

戦闘開始!

  ようやく歩兵陣地に配属された。とうとう戦闘だ。戦車が来た。撃て!撃て!しかし戦車は止まらない!何事もなかったかのように進んでくる。敵の爆撃機からも攻撃される。まわりの兵隊は爆音とともにばたばた倒れていく。比嘉少年もそのまま気を失った。

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 目を覚ました。生きている。泥まみれだがどこも撃たれていない。まわりはほとんど死体ばかり。泥に足を取られながら生きている数人と壕に戻った。皆顔に疲労の色がにじみ出ている。続々と残兵が壕に入ってくる。米軍はここにもせまっているとのこと。

 戦車のキャタピラ音が聞こえる。兵が外にとび出し戦車に向かった。瞬間、壕の入り口が砲撃されたようだ。息をひそめていると壕の上から音がする。削岩機で掘っているらしい。上部で爆発音がし陽光が射しこんできた。そこから何かが降ってきた。もう終わりだ…。

死にたい

 目が覚めた。まだ生きている。しかし、死体に埋もれて動けない。死にたい。もう嫌だ。人の足音がする。誰がが近くにいる。死体をどかしながら一歩ずつ近づいて来る。米兵か?手持ちの手りゅう弾にそっと手を当てた。米兵だったら安全ピンを抜いてしがみついてやる。

 自分の上に積み重なっている死体の間から、そっと覗いた。日本兵だ。その男の顔を見て驚いた。上半分の肉が削り取られ、右目の眼球は飛び出て垂れさがっている。なぜこいつはこの姿で生きている?比嘉少年は死体の山から這い出た。

 日が暮れまた明ける。自分は今どこへ向かっているのか。米軍から逃れるために朝が来ると死体の下に潜る。暗くなるまで自らを死体と化すようにした。動かず目を閉じる。死体が腐り始め匂う。蛆が顔をはい、鼻や耳の穴から入ってくる。暗くなると死体から這い出し蛆を払う。もう周囲には日本兵はいない。ここは米軍に蹂躙されたエリアだ。

 

 まさにこの世の地獄です。もちろんこの比嘉少年は生き残り、後に吉村さんにこの体験を語ることになります。   

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