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冬の表現

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冬の表現をいろいろなところから拾ってみました。随時更新していきます。

雪 

冬が、存外、早く来た。その夜から、とめどもなく雪がふりはじめたのである。『峠 上』司馬遼太郎 

駅舎を出ようとしたら、雪が降っていた。それも世界を白く塗りつぶさんがばかりの降りようで、その中を焦げ茶色の生きものが左から右へ通りかかった。『家守綺譚』梨木香歩

庭が雪景色だ。降り積もった雪の間から、南天の赤い実が艶々と光っている。雪は止んでいるが空は曇り、いつ降り出すか分からない。空気は鉛の色合いと質感を帯び、風もなく音もない。『家守綺譚』梨木香歩 

雪だ。視界を乱舞する、灰のように細かい欠片に気づき、走はぼんやりと思った。さっきまでは霧雨だったのに、いつのまに雪に変わったんだろう。どうりで寒いはずだ。『風が強く吹いている』三浦しをん

路地のなかには、いつかの雪が置き去りにされたように、まだちょっぴり残っていた。それが昼のあったかさで解けて、吾一の足もとのところで、ちいさい水たまりをつくっていた。『路傍の石』山本有三

翌朝、初雪が舞った。雪はちらつく程度で、強い風に吹き散らされてわずかに眼にとまるだけであったが、午後に入ると密度が増し、家の入口に垂れたムシロをはためかせて舞い込むようになった。『破船』吉村昭

二月に入ると、大雪に見舞われた。家は雪に没し、家の中は闇に近くなった。彼は、母とともに屋根の雪をおろし、家の窓の外の雪をとりのぞいて陽光のさしこむ空間を作った。『破船』吉村昭

例年よりおそく雪がやってきたが、初雪は激しい吹雪になり、三日間やむこともなかった。村は雪におおわれ、屋根のふちから太いつららが幾筋も垂れた。『破船』吉村昭

夜が明け、雪におおわれた裏山の背後に朝陽ののぼる気配がひろがった。『破船』 吉村昭

落ち葉がやんだ頃、早くも初雪が舞った。ちらつく程度であったが夜になるとかなりの降りになり、翌日は激しい吹雪になった。ようやく海は冬の様相を示し、波浪の音が村をつつみこんだ。『破船』吉村昭

雪が、連日舞うようになり、村落も裏山も白一色にそまった。『ハタハタ』吉村昭

山は白雪におおわれ、村落にも雪が舞うようになった。そして、積雪が増すと定期バスも村落を訪れることもなくなり、村落は、孤絶した世界と化した。『羆』吉村昭

いつも雪はしんしんと降っていた。昨日とは違って大粒の雪がこやみなく、いかにも重たそうに落ちていた。空は幾らか曇っていて、急に冬らしくなった薄ら陽が鋪道の飢えに散っている。『氷壁』井上靖

冬の夕暮れの鉛色の空を茫然と見た。また外で、焼き芋屋の声が聞こえる。『深い河』遠藤周作

冬枯れの木立の梢越しに白いのっぺりした曇り空が見えた。強い風が枝をわらわらと揺らしている。カラスが鳴きながら飛んでいく。冷たい空気を山盛り吸い込んで、胸がきりきりと痛かった。

『一瞬の風になれ 2』佐藤多佳子 

杉戸をあけて濡れ縁に出た濃姫の目に、真っ青な空が広がった。ひたひたと濃姫は濡れ縁をわたってゆく。濡れ縁を踏む足のつめたさが、むしろ快いほどに暖かな冬晴れなのである。『国盗り物語 3』司馬遼太郎

空は晴れて、初冬にはめずらしいやわらかな日射しが、山麓の村に降りそそいでいる。『密謀(下)』藤沢周平

落葉 

部屋は暖炉で温めてある。今日は外でもそう寒くはない。風は死に尽くした。枯れた樹が音なく冬の日に包まれて立っている。『三四郎』夏目漱石

うら枯れたハスが、そこに少しばかり残っているが、葉はもう一枚もついていない。なんのことはない。こわれた番ガサをさかさまに突きさしたように、えがちょこんと立っているだけである。水の中には、カラカサの紙の切れっぱしのようなものが、きたなく、とけて沈んでいた。季節が季節のせいか、池のまわりには、いつものように、散歩する人の姿は見えなかった。どっちを向いても、さびれはてた感じだった。『路傍の石』山本有三

十月末になると、山の紅葉も黒ずんで、汚くなり、とたんに一夜あらしがあって、みるみる山は、真黒い冬木立に化してしまった。『富嶽百景』太宰治

樹葉が枯れ始め、裏山から舞い上がる落葉が村に舞い落ちるようになった。『破船』吉村昭

岩のむき出しになった傾斜の所々に、すすきの穂がゆれている。日が山あいに沈みかけていて、村の半ばは暗くなっていた。『破船』吉村昭

暗鬱な雲が頭上を覆い、木々は残る木の葉をふり落とそうとしていた。『密謀(下)』藤沢周平

霜 

暗い楼梯を下りて、北向の廊下のところへ出ると、朝の光が美しく射してきた。溶けかかる霜と一緒に、日にあたる裏庭の木葉は多く枝を離れた。就中(わけても)、脆いのは銀杏で、梢には最早一葉の黄もとどめない。『密謀(上)』 藤沢周平

割合に風のない暖かな日でしたけれども、何しろ冬の事ですから、公園の中は淋しいものでした。ことに霜に打たれて蒼味を失った杉の木立の茶褐色が、薄黒い空の中に、梢を並べて聳えているのを振り返って見たときは、寒さが背中へ噛り付いたような心持がしました。『こころ』夏目漱石

寒い朝である。枯田には真白な霜が降りていた。『椿寺まで』浅田次郎

寒さ 

それは少許も風のないしんとした晩で、寒威は骨にしみ通るかのよう。恐らく山国の気候の烈しさを知らないものは、こうした信濃の夜を想像することができないであろう。『密謀(上)』 藤沢周平

割合に風のない暖かな日でしたけれども、何しろ冬の事ですから、公園の中は淋しいものでした。ことに霜に打たれて蒼味を失った杉の木立の茶褐色が、薄黒い空の中に、梢を並べて聳えているのを振り返って見たときは、寒さが背中へ噛り付いたような心持がしました。『こころ』夏目漱石

海 

海も冬の様相をしめし、北西風の吹きつける日が多くなり、海水は、一層冷えた。『破船』吉村昭

年末

街は歳暮のにぎわいを見せているが、ひところのクリスマスまでの気狂いじみた混雑さはなかった。魚津はクリスマスが終わってから正月までの短い期間の、なんとなく憑物が落ちたような表情をしている師走の街が好きだった。『氷壁』井上靖

日射し

氷雨が野山を叩き、時おりさしかける日射しは、日一日と淡くはかない色を帯びた。そして夜はすばやくおとずれて、暗く長い夜がはじまる。会津は冬を迎えようとしていた。『密謀(下)』藤沢周平

三人の中老は、一月の淡い日射しの中で喜色溢れる顔を見かわしていた。『密謀(下)』藤沢周平

空は晴れて、初冬にはめずらしいやわらかな日射しが、山麓の村に降りそそいでいる。『密謀(下)』藤沢周平