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初めての戦争文学8選 

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日本の戦争文学

日本の戦争文学は、内面を見つめ、立場の矛盾を細かく書いた素晴らしい小説がたくさんあります。それに、せめて文学だけでも戦争に反対し続けるのが大切なこと。いつの時代にも、文化は政治の母ではなくてはなりません。浅田次郎 朝日新聞2017年10月3日

 はじめて読んだ戦争モノは『黒い雨』でした。それから、年に1~2冊くらいのペースで、戦争モノを読むようにしました。体験談をまとめたものや、写真集やノンフィクション系のものも読みましたが、やっぱりわたしは小説で読む方がすきです。

 著名な戦争文学では、作家に命を吹き込まれた主人公が、置かれた様々な場面で必死に戦争と対峙します。その主人公に身を委ねることで、彼らと戦争を体験することができます。今回は、太平洋戦争を代表する場面を8つ選び、その場面に沿った本をそれぞれあげました。

『アメリカひじき・火垂るの墓』野坂昭如 

昭和20年9月21日、神戸・三宮駅構内で浮浪児の清太が死んだ。シラミだらけの腹巻きの中にあったドロップの缶。その缶を駅員が暗がりに投げると、栄養失調で死んだ4歳の妹、節子の白い骨がころげ、蛍があわただしく飛び交った……戦後どれだけの時間が過ぎようと、読む度に胸が締め付けられる永遠の名作『火垂るの墓』をはじめ全6編を収載。

 映画『火垂るの墓』の原作です。映画を見ていない人はそちらからどうぞ。あまりに有名な映画なのでストーリーの説明は省きます。

 この文章を書くにあたりググったところ、興味深い記事を見つけました。

 この原作の著者、野坂昭如さんは、この作品についてこう語っています。 

「実際の妹はまだ1歳4カ月、喋れなかった。 作中では4歳の妹が喋る。主人公の兄は、飢えた妹に最後まで優しい。ぼくはあんなにやさしくはなかった」

 そして、

「わずかな米をお粥にして妹にやる。スプーンでお粥をすくう時、どうしても角度が浅くなる。自分が食べる分は底からすくう。実のあるところを食べ、妹には重湯の部分を与える」

 この野坂さんの正直なコメントを見て感じるのは、野坂さんへの幻滅ではなく、戦争の底知れない悲惨さです。野坂さん、よくこういうこと言えますね。かっこいい。

『野火』/大岡昇平 

敗北が決定的となったフィリッピン戦線で結核に冒され、わずか数本の芋を渡されて本隊を追放された田村一等兵。野火の燃えひろがる原野を彷徨う田村は、極度の飢えに襲われ、自分の血を吸った蛭まで食べたあげく、友軍の屍体に目を向ける……。平凡な一人の中年男の異常な戦争体験をもとにして、彼がなぜ人肉嗜食に踏み切れなかったかをたどる戦争文学の代表的名作である。

 戦争といえば、敵と銃で撃ちあうことを想像する人も多いでしょう。でも、ほとんど敵と戦うことなく死んでいった人がたくさんいました。

 南方の島々に多くの日本兵が派遣されました。最初はそのあたりの島も重要な拠点でしたから。でも、すぐに戦況が変わりました。

 アメリカ軍はジャングルだらけの粗末な島に見向きもせず、サイパンや硫黄島に向かいました。日本軍の主力は、当面の攻撃をしのぐのに手いっぱいで、はるか南の島にとり残された兵士の食料補給や引き上げなどに手がまわりません。残された彼らには「飢え」という恐ろしい敵が待っていました。

 ジャングルで食料を得るのは簡単ではありません。捕った食料を仲間にばれないようにこっそり秘密の場所に隠し、仲間が死ぬとその持ち物をあさり、一粒の米をめぐって殺し合う。気が狂ったり自殺をはかったりする兵士も出てきます。

 そんな状況をリアルに描いているのがこの作品です。映画にもなっています。最後には人間の肉を食べます。ショッキングです。

 フィリピンだけじゃない、ビルマからインドまでの地獄の行軍、インパール作戦も知っておきたい史実です。

『永遠の0』/百田尚樹 

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。天才だが臆病者。想像と違う人物像に戸惑いつつも、一つの謎が浮かんでくる-。記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。

 V6の岡田くん主演で映画化されました。いろいろと物議を醸し出す百田さんですが、この映画は涙が止まりません。この作品が特攻隊のすべてというわけではないでしょう。しかし、特攻隊の一面を描いていることは確かであり、ここから戦争小説に入るのは決して間違いではありません。この本の中で唯一戦争を体験していない人が書いたものじゃないかな?

 おすすめのお気に入りのセリフです。

 どんなことがあっても宮部の機を守り抜く。敵の銃弾は一発もあてさせない。宮部に襲いかかる敵機はすべて撃ち墜とす。弾がなくなれば、体当たりしてでも墜とす。しかし、俺の機体は突然ものすごい振動と共に発動機から煙を噴き出した。

「このポンコツめ!気合いを見せろ!」

 俺は声の限り叫んだ。ただもう訳もわからず叫んでいた。日本など負けろ!帝国海軍は滅べ!軍隊など消えてなくなれ!そして軍人はすべて死ね!

『戦艦武蔵』/吉村昭 

日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦「武蔵」-膨大な人命と物資をただ浪費するために、人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは何か?非論理的愚行に邁進した人間の内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の大作である。

 世界最大級の戦艦「武蔵」。双子艦で、もう一つはご存じ「大和」です。「大和」は聞いたことがあるでしょう。国家機密のプロジェクトで、両艦とも製造中は工場全体にすだれをかけ、誰にも見られないようにしました。デビューの日は、長崎市民に外出を一切禁止したといいます。湾近くの人家には警察官が1宅につき複数名出向き、住人に拳銃を向けて湾側を見させないようにしたとのことです。

 製造中の工員ですら自分の担当工事のことしか知らされていないため、目の前の配管がどこにつながっているかすらわかりません。著者の吉村さんも、資料集めにずいぶん苦労なさったといいます。

 大砲の射程距離は38キロ!大砲一発の重さが1トン!すごいと思いませんか?軽自動車くらいの弾が40キロ先まで飛んでいくんです。しかし、援護機がいない中、米軍機の執拗な魚雷攻撃により沈みました。本当に無念です。冥福を祈ります。

『殉国』/吉村昭 

 「郷土を渡すな。全員死ぬのだ」太平洋戦争末期、沖縄戦の直前、中学生にガリ版ずりの召集令状が出された。小柄な十四歳の真一はだぶだぶの軍服の袖口を折って、ズボンの裾にゲートルを巻き付け陸軍二等兵として絶望的な祖国の防衛戦に参加する。少年の体験を通して戦場の凄まじい実相を凝視した長編小説。 

 吉村さんの作品が続きます。一少年兵の始点から、沖縄戦をとらえた物語です。徹底した少年視点の描写によって、現実の沖縄戦を垣間見ることができます。沖縄を守るために命を懸けて敵を倒そうと意気込んでいた少年が、わずか二か月で一瞬の死をのぞむようになるんです。とにかく凄惨。腐敗、膿汁、蛆、蠅、虱、排泄物、汚物、飛び散る内臓、めくれる顔…。まだ14歳。子どもじゃないか。何ということだ。何ということだ!

 『戦艦武蔵』もそうですが、吉村作品には、心をうつ名ゼリフや教訓が書いてあるわけではありません。ただ、ひたすらに史実を追う執念深い書きぶりに注目です。慣れないと少しつらいかな。

『黒い雨』/井伏鱒二

一瞬の閃光に街は焼けくずれ、放射能の雨のなかを人々はさまよい歩く。原爆の広島-罪なき市民が負わねばならなかった未曽有の惨事を直視し、一被爆者と「黒い雨」にうたれただけで原爆病に蝕まれてゆく姪との忍苦と不安の日常を、無言のいたわりで包みながら、悲劇の実相を人間性の問題として鮮やかに描く。被爆という世紀の体験を日常性の中に文学として定着させた記念碑的名作。 

 学校で原爆のことを勉強したでしょう。もう、わかった気になっていませんか?これ、読んでみてください。ああ、自分の理解は浅かった、と感じると思います。ずいぶん前の本ですが、みなさんが思うより難しくないですよ。案外すらすら頭に入ってくると思います。ただ、内容が無残で読み進めるのが辛いという声も聞きます。でも、読まないとね。日本は世界で唯一の被爆国ですから。

 原爆投下後の悲劇をリアルに描写しています。そうだ、広島には行ったことがありますか?わたしは、大人になってから行きました。10代の頃に行った方がいいです。なぜかはうまく言えません。しいていうなら、「広島に行ったことがある」と言えるようになれます。これって、大事なことだと思います。この本もそうです。「『黒い雨』を読んだことがある」と言えるのは、大事なことでして、それはこれを読まなくては言えないわけで…。

『大地の子1』/山崎豊子

日本人残留孤児で、中国人の教師に養われて成長した青年のたどる苦難の旅路を、文化大革命下の中国を舞台に描く大河小説。
満州に開拓団としてやってきた松本家の幼い長男・良雄。だが敗戦直後に侵攻してきたソ連軍により祖父と母を殺され、妹とは生き別れになる。日本人としての記憶をなくし、放浪し、虐待をうけ、逃亡する少年を救ったのは教師・陸徳志だった。その養子となり陸一心と名乗る。

 全部で4巻セットですが、まず1巻だけ読むつもりで手に取ってください。1巻読むだけで、中国残留孤児のことが衝撃的に理解できます。山崎豊子さんは凄まじい。人間を書かせたら、この人を超える人ってそういないんじゃないでしょうか。

 中国東北部に満州国という国があって、そこは日本の領土でした。不況の影響もあって、何万人という日本人が日本から移り住んでいました。

 戦争が終わり、満州国から日本に戻ることになるのですが、行く手を阻むのがソ連兵と中国。見つからないように集団で移動します。泣かれるとみんなが殺される!むずかる赤ちゃんや幼児はむりやり殺されることもあったらしいです。主人公「良雄」くんの集団は、逃げる際中にソ連兵に襲われ、彼と幼い妹以外は全滅します。生き残った二人は中国人に連れ去られます。良雄は妹のためにがんばろうと思うのですが、妹は別のところに売られて離れ離れになります。

 このあとの兄妹(特に妹!)のあまりにも悲しすぎる展開に、おそらく2巻を手にすることになります。 

『不毛地帯1』/山崎豊子

大本営参謀・壱岐正は、終戦工作に赴いた満州でソ連兵に抑留される。極寒のシベリアで、想像を絶する飢餓と強制労働に11年にわたってたえ抜き、ついに昭和31年、帰還を果たした。その経歴に目を付けた近畿商事の社長大門の熱心な誘いに応え、第二の人生を商社マンとして歩むことを決意。地獄の抑留生活の傷も癒えぬまま、再び「商戦」という名の新たな戦いに身を投じる。

 「中国残留孤児」よりも認知度が低い「シベリア抑留」。しかし、知ってびっくりです。正直、ありえない話です。読めばわかる。本当にこんなことがあったのか、と、誰もが驚きます。わたしなら、耐えられない。この主人公「壱岐正」、すごい男です。わたしは、「つらくなったときに名前をよび自分を元気づけるリスト」という奇妙なものをもっているのですが、そのリストの中に「壱岐正」という名もあります。「イキタダシ、イキタダシ」とぶつぶつ言いながら今まで様々なことに耐えてきました。

 これも、先にあげた『大地の子』と同じ著者、山崎豊子さんの作品です。『大地の子』同様1巻だけ読めばOKです。とにかくとにかく地獄です。地獄度100%。

 

 ここには載せませんでしたが、城山三郎『落日燃ゆ』も読みたい一冊です。A級戦犯広田引毅について書かれた小説です。書きぶりは吉村昭さんによく似ています。A級戦犯について見方が変わる一冊です。