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朝、起きたら虫になっていた 『変身』カフカ

 簡単にあらすじを紹介します。

 平凡なサラリーマン、グレゴールザムザは、朝目覚めると一匹の巨大な虫になっていました。背中には堅い甲羅があり、腹は褐色で、何本も足が生えています。

 変わり果てた息子の姿に母親は悲鳴をあげて失神し、怒った父親は彼の背中にリンゴをなげつけます。妹はときどき食べ残しのパンなどを差し入れてくれます。それを「おいしい」などど思いつつ食べるグレゴール。完全に家族の厄介者です。

 変身前のグレゴールは、家族のためにあくせく働いていました。グレゴールをあてにできなくなった家族は働きに出ます。父親は守衛に、母親は内職を、そして妹は売り子になります。父親はほとんど働くことがなかったのですが、息子が変身してからは、一家の支柱として見違えるほどの働きをするようになります。

 グレゴールが死ぬことによって、家族は今までになかった新しい開放感をえて、いそいそと郊外にピクニックに出かけたりします。

 こんな感じです。グレゴール、虫ですよ。起きたら虫になっていたって。

 今さらですが、どうして大きな虫に変身させたのでしょう。外見だけがここまで大きく変わってしまうと、内面は全く変わっていないのに無残な結果になってしまうのだなあ、と悲しくなります。

 不思議なのは、グレゴールの内面がちっとも変わらないところです。巨大な虫になっても、会社に行くための汽車の時間を気にしたり、出勤時間を気にして眠ったりします。周りが大きく変わっているのに、自分だけは変わっていません。上司が家に来ると、クビになることを気にしてしきりに言い訳をしてまだ何とか仕事を続けようと努力するんですよ。

 グレゴール自身は相手の言うことがすべてわかるのに、自分の意志は相手に全く通じません。物を言おうとし、家族に協力しようとしますが、周りが彼を理解しようとしません。完全に虫あつかいです。虫ですから当然といえば当然です。

 虫となったグレゴールを隠し続ける生活も、終わりをむかえます。ある夜、グレゴールは妹のバイオリンの音を聞きます。こっそり、妹の姿をのぞくグレゴール。妹が一生懸命引いているバイオリンを下宿人が横柄な態度で聞いていることに驚いたグレゴールは、「俺の部屋で妹に弾いてもらおう」と思い、妹に近づきそっとスカートのすそをくわえようとします。お兄ちゃんの優しさから出た行動だったのですが、もちろん下宿人に見つかり大騒ぎとなります。

 かばってくれると思ったのに、その妹は自分のことを

「このけだもの」

と言います。そして、家族に

「あたしたちはこれを振り離す算段をつけなくっちゃだめよ」

「いったいどうしてこれがグレゴールだというの?。もしこれがグレゴールだったら、人間がこんなけだものといっしょには住んでいられないということくらいとっくにわかっているはずよ」

なんて言います。もしこの虫が本当にグレゴールなら、自分から出ていくはずだ、と。あまりに悲しい残酷な一言です。

 先日「人は見た目が何%?」という記事を書きました。グレゴールは、話ができないので同じ問題ではないですが(周囲にとっては、本当にグレゴールなの?という問題があります)、虫だったら悲しいなあ。 

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