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冤罪事件と被害者遺族の悔しさの間で 『ドキュメント死刑囚』篠田博之

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~死刑と向き合う~ 朝日新聞2017年5月20日朝刊です。

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 日本の死刑制度について、二人の識者が語っています。一人は関西大学法学部教授の永田憲史さん。もう一人は、英レディンス大学法学部専任講師の佐藤舞さんです。

 永田さんは、世界の潮流が死刑廃止に向かう中、日本で廃止の機運が盛り上がらなかった理由の一つには、国民の間に「人を殺した人間は死刑になっても仕方がない」という素朴な感覚があるとしながらも、死刑の是非をめぐる議論を深めていきましょう、と言います。

 佐藤さんは、英国で死刑が廃止された理由を「死刑執行後に真犯人が見つかり冤罪だったことがあきらかになった事件を契機に、1960年代に廃止論が高まったため」とし、加害者を罰するより被害者支援の充実の方が重要ではないか、と言います。

 死刑と聞くと、わたしはある人間を思い出します。宅間守、大阪の小学校で児童8人を殺害した男です。宅間守の事件について簡単に説明します。

 大阪教育大学付属小学校に包丁を持った男が乱入し、教室で生徒や教師に次々と斬りかかった。生徒8人が死亡、教師を含む15人が重軽傷を負った。

 この男は、被害者家族に敵意剥き出しの発言までしたとのこと。殺された子どもの親は、宅間を八つ裂きにしても足りないと思ったに違いありません。

 この本には、宅間と宮崎勤小林薫の3人の死刑囚(全員執行済み)についてその事件の概要と3人の人間が描かれています。共通するのは、子どもや幼児を狙ったこと、冤罪の可能性がないこと、です。

 この本には、小林に殺された被害者の家族の証言があります。

 娘の命を簡単に奪いながら、平然と生きている小林を決して許すことはできません。私たちは「極刑以上の刑」を与えてやりたい思いでいます。当然そのような刑がないのは知っています。それでも「極刑以上の刑」を与えてほしい、そして娘が受けた苦しみ以上の辛さを味あわせてやりたい。

 冒頭にあげた英国の冤罪事件を思うと、死刑廃止には説得力があります。しかし、娘を惨殺され、その加害者に反省のかけらも見えない、その遺族の気持ちを考えると胸が痛みます。

 生きている限り改心の機会はある、だから終身刑をという案もあるようです。

 宅間が土下座して謝りでもすれば、遺族の気持ちも少しは収まるかもしれません。しかし、死を覚悟して悪の道に徹しようと思っている人間にはどんな説教も無駄でしょう。

 昔、多くの人は宗教を信じていたので、最後に悔い改めれば天国に行けるとおどかすことができました。今日、多くの人は死ねば死にきりと思っています。なので、死ぬと決まった人間はある意味無敵になってしまいます。宅間のような男の出現になすすべはありません。

 死刑の方法をいくつか設け、宅間のように悔い改めない犯人にはきつい死刑方法を採用し(火あぶりや油風呂、豚人間など)、被害者遺族にその方法を選択させるなどしたら、宅間といえども「普通の死刑にして下さい」と懇願するかもしれません。

 またまた冒頭の英国に戻ります。英国はその昔、他人の死刑を見物することが庶民の娯楽でした。その頃の英国なら、この案も採用されたかもしれません。現代刑法の下では、そういうのはやはり無理でしょうね。やり切れないです。

 死刑制度について考えさせられた本です。おもしろいです。

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