読書生活 

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願いが三つかなうなら 『輝く夜』百田尚樹

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幸せな空気溢れるクリスマスイブ。恵子は、7年間働いた会社からリストラされた。さらに倒産の危機になけなしの貯金までわたしてしまう。「高望みなんてしない、平凡な幸せが欲しいだけなのに」。それでも困っている人を放っておけない恵子は、一人の男性を助けようとするが-

 5つの短編集です。5つとも、クリスマスイブに起きる奇跡の話です。ベタです。ありきたりという評判も聞きますが、私は大好きです。特に、この「魔法の万年筆」が大好きです。

 リストラされた夜、恵子は道端でホームレスに会います。お金をあげようとしますが、思いとどまります。

何も私が恵むことはない。もっとお金がある人が恵んであげるべきだ。-ごめんなさい。ホームレスさん、私も貧しいのよ-

 そう思って立ち去ろうとしたとき、そのホームレスと目が合います。そんな悲しい目で私を見ないで。私も今日、会社を首になったのよ。それに貯金も無くなったの。

 つい先日、会社倒産の危機にある弟に全財産の200万円を渡したばかりです。おそらくその200万円も焼け石に水。会社は倒産し、200万円は返ってこないでしょう。しかし、困っている弟におそらく返ってこない200万円を渡すことを、恵子はためらいませんでした。

 でも、やっぱり立ち去れない。ホームレスをそのままにしておけない。恵子は、温かいハンバーガーとミルクをホームレスの前にそっと差し出します。すると、そのホームレスはポケットから願いが三つかなう「魔法の万年筆」を恵子に渡します。

  全く信用しない恵子は、その万年筆をごみ箱に捨てて一人でイタリアンレストランに入ります。お金はないけど、せっかくのイブ。誰もいない部屋で一人寂しく夕食を食べる気にはなれませんでした。席に座って財布の中身を確認すると、さっき捨てたはずの万年筆が入っています。

 ものはためしと「おいしいケーキを食べたい」と書きました。せっかくのクリスマスイブですからね。するとウェイターが「どうぞ、クリスマスイブのサービスです」とショートケーキを持ってきました。これで恵子は万年筆の力を信用するわけです。ベタです。

 恵子は迷わず二つ目の願いを書きました。「弟の仕事がうまくいきますように」です。ベタです。すると、すぐに弟から電話がかかってきました。

 融資が受けられたんだ。それに大きな仕事が同時に入った。とりあえずもう心配はなくなったということを知らせようと思って。

 「やった!」三つめはもっとベタですよ。34歳独身女性の恵子です。もうわかりますよね。ご想像の通りです。でも、それがいいんです。優しい恵子がどんな相手を思い、どのように書いたかが胸キュンポイントです。

 さすが百田さん、話の筋がわかっていても最後まで読ませてくれます。少しひねってあります。人の幸せを願う恵子ですが、その幸せがことごとく自分に返ってきます。このベタな話に私は胸をうたれました。