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美の最終形態 「モンスター」百田尚樹

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田舎町でレストランを経営する絶世の美女・未帆。彼女の顔はかつて畸形的なまでに酷かった。周囲からバケモノ扱いされる悲惨な日々。思い悩んだ末にある事件を起こし、町を追われた未帆は、整形手術に目覚め、莫大な金額をかけ完璧な美人に変身を遂げる。そのとき亡霊のように甦ってきたのは、ひとりの男への、狂おしいまでの情念だった-

 

 主人公は、畸形的な外見(私が言ってるのではなく、書いてあるのです)をもつ、田淵和子。

 一重まぶたで腫れたように薄い目、しかも両目が馬鹿みたいに離れている上に左右の形が違っていた。鼻は低く横に広がり、大きな穴は上に向いていた。鼻の下はやたらと長く、口は出っ歯だった。歯並びは悪く、笑うと歯茎が剝き出しになった。頬骨が出てエラも張っていた。

 この顔のせいで(繰り返しますが、私が言っているのではありません)凄まじいいじめにあいます。

 中学校の卒業式の日、好きな男の子に勇気を出してマフラーをプレゼントします。 翌日の朝、近所にいる人懐っこい野良犬の首にそのマフラーが巻かれていました。

 高校生の時、好きになった男の子が失明したらブスな自分に振り向いてくれると思い込み、家(薬局)のメチルアルコールを彼に飲ませようとして警察に捕まります。ついたあだ名が「モンスター」。

 高卒後、逃げるように上京します。大学生活でも就職活動でも差別され、23歳の誕生日の夜、一人で泣きながらケーキを食べます。「私は醜く生まれたばかりに幸せには絶対になれない、一人で貧しく老いていくのだ、こんな滑稽な話があるだろうか」と。    

 そんな和子の目に、女性週刊誌の整形外科の宣伝ページが留まります。

 初めて整形手術をしました。84000円払って二重にしたら、きれいな目になりました。美人とはとても言えません。でも、こんな目がほしかった、和子は泣くほど喜びます。もっと、もっと、と医者に相談すると、歯科医とも連携した何百万円もの手術になるとのこと。「よし、やってやる、とことんやってやる、お金を貯めて、美人になってやる!」そう誓いますがお金がありません。どうやてお金を貯めようか、今の給料では永久に無理。

 思い切って風俗に飛び込むも「自分の顔を見たことあるのか、風俗なめるな!」と断られます。消えてしまいたいほど惨めな気持ちを味わいますが、手術費のためです。粘りに粘って何とかSMクラブで雇ってもらいます。お金が全額たまるまで待てません。小金がたまるたびに少しずつ手術をします。手術の度に、普通に近づき、普通になり、少しずつ美しくなります。

 ある日、和子に衝撃的な出来事が起きます。ナンパされるのです。

「すみません。お時間ありませんか?」

一瞬何を言っているのかわからなかった。

「あのう、どこかで三十分くらいお茶でも飲みませんか?」

突然、ナンパという言葉が頭の中に閃いた。私は今、ナンパされている!体中にゾクゾクする快感が広がり、全身に鳥肌が立つ感じがした。

「お茶ですか?」

そういう私の声が震えているのがわかった。

「はい、どうですか?」

私はようやくのことで首を振った。ここは断らなくては。この喜びを味わうためにも。

「ごめんなさい。時間がないのです」

「そうですか。残念です」

 私は街で声を掛けられた!それもハンサムな男から。嬉しくてスキップしそうになった。街を行く男が私を認めてくれた。私の美しさを認めてくれたのだ!人格なんかどうでもいい。私が何を考えているか、そんなことを知らない男が、私の顔だけを見て、声を掛けてくれたのだ。一目ぼれって素敵だと思った。それこそが本当の恋ではないかと思った。

 人間の世界は、学歴や職業、様々なものでごまかされる。余計なものに目が騙される恋なんて本当の恋ではない。本当の恋とは、すべての条件は関係なし、ただ、その異性に会った瞬間に惹かれるものだ。そして女は男に選ばれる。

 私はこれからいろんな男に選ばれる。多くも男が私の美しさに惹かれ、近づいてくる。嬉しい、嬉しい、嬉しい!私は心の中で、嬉しい、を何回も唱えた。

 このナンパが、和子の整形意欲を高めます。顔レベルが上がるにつれ、SMクラブからヘルス、ソープと高収入の風俗へ移籍し、とうとう手術をやり遂げます。美の最終形態です。総額一千万円以上!

 和子より美しい女性はいなくなりました。ねらった男は逃さない。どんな男も私に惚れる、男と遊びつつ、かつて自分をいじめた憎き相手や、マフラーを犬の首に巻いた男に復讐を果たし…。

 

 徹底的で具体的な文章、わかりやすくおもしろい文章、百田さんはさすがです。この作品も、「夢を売る男」同様、深い言葉があるわけではありません。しかし、「夢を売る男」に満載されていた出版知識同様、この「モンスター」には整形知識や男を落とすテクニックがつまっています。

百田作品で感動したいなら、これをおすすめします。