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自殺をしてはいけない理由 「手紙」東野圭吾

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強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き、感動を呼んだ不朽の名作。

 

 400ページほどありますが、事件は最初の20ページで行われる殺人事件のみ。残りの380ページは「殺人犯の弟」である主人公の直貴が、差別され続ける日々が描かれています。「犯罪加害者の家族が、社会や加害者本人である家族とどう向き合うか」という重いテーマです。最終的に直貴は「兄と絶縁する」という道を選びます。

 就職活動先で、直貴は社長である「平野」という人物に目をかけてもらいます。この平野社長の言葉が深い。

なぜ人を殺してはいけないのか なぜ自殺をしてはいけないのか

 平野の「なぜ人を殺してはいけないのか」という問いに、直貴は「自分だって殺されるおそれがあるから、殺人はよくない」と答えます。また、「自殺は認めるか」という問いには、「自分の命だからどう扱うかは自分の自由、だから自殺の権利はある」と答えます。

 それに対して平野はこう返します。

「人には繋がりがある。愛だったり、友情だったりするわけだ。それを無断で断ち切ることなど誰もしてはならない。だから、殺人は絶対にしてはならないのだ。そういう意味では自殺もまた悪なんだ。自殺とは自分を殺すことなんだ。たとえ自分がそれでいいと思っても、周りの者もそれを望んでいるとはかぎらない。君のお兄さんはいわば自殺をしたようなものだよ。社会的な死を選んだわけだ。しかしそれによって残された君がどんなに苦しむかを考えなかった。衝動的では済まされない。君が今受けている苦難もひっくるめて、君のお兄さんが犯した罪の刑なんだ」

「君が兄さんのことを憎むかどうかは自由だよ。ただ我々のことを憎むのは筋違いだといっているだけだ。もう少し踏み込んだ言い方をすれば、我々は君のことを差別しなきゃならないんだ。自分が罪を犯せば家族をも苦しめることになる。すべての犯罪者にそう思い知らせるためにもね」

 

平野社長は、自殺も殺人も認めないと言います。

 自殺がいけない理由

  • 自殺をした周囲の人間が悲しむ。
  • 周囲の人間に、「自殺者の関係者」という苦しみを与えてしまう。

  人を殺してはいけない理由 

  • 被害者の周囲の人が悲しむ。
  • 加害者の周囲の人に、「殺人者の関係者」という苦しみを与えてしまう。

そして「人を殺してはいけないと周知させるためにも、殺人者の関係者は社会から差別されることになる」としています。 

 直貴はこの後、結婚し娘が生まれます。ところが、その娘も「殺人犯の弟の娘」という差別を受けるようになります。自分への差別なら構わない、しかし、娘まで差別を受けなければならないのか-

 この直貴の葛藤を、平野はばっさり切り捨てます。

「厳しい言い方をすれば、君はまだ甘えている。君も、君の奥さんもね。(娘への差別も)その状況ならそうだろうね。考えてもみなさい。強盗殺人犯だ。そんな人物とお近づきになりたいと誰が思うかね。前にもいったと思うが。逃げずに正直に生きていれば、差別されながらも道は拓けてくる。君たち夫婦はそう考えたんだろうね。若者らしい考え方だ。しかしそれはやはり甘えだ。自分たちのすべてをさらけだして、その上で周りから受け入れてもらおうと思っているわけだろう?仮に、それで無事に人と人との付き合いが生じたとしよう。心理的に負担が大きいのはどちらだと思うかね。君たちのほうか、周りの人間か」

「じゃあ、一体どうしろというんですか。やっぱり差別に耐え続けるしかないということですか。あの小さな娘に、そんなことを要求しなきゃならないんですか」

  納得できないまま、直貴は家に戻ります。その後、自転車に乗った妻がひったくりにあい、一緒に乗っていた娘が重傷を負います。頭を強く打ち、額に消えない傷跡が残ります。事故の5日後に犯人が逮捕されました。21歳の男でした。

 しばらくして、その犯人の両親が家を訪ねてきます。身なりも整え、精一杯誠意を見せようと平身低頭し、「私でよければ殴るなり蹴るなりしてください」と泣きながら謝罪する二人を帰宅させ、直貴は今までの自分を振り返ります。

「あの人たちはいい人だけど、俺はやっぱり許す気にはなれない。あの二人が土下座して謝るのを見てて、俺、何だかすごく苦しかった。息が詰まりそうだった。その瞬間、俺はわかったんだ。社長からいわれたことの意味がはっきりと理解できた。正々堂々としていればいいなんてのは間違いだってことにさ。それは自分たちを納得させているだけだ。本当は、もっと苦しい道を選ばなきゃいけなかったんだ」

 そして、直貴は兄に「縁を切る」という手紙を書きます。

 この決断について平野は、

「君の決断について、人は非難するかもしれないね。世間体を気にして家族の縁を切るとは何事か、刑期を終えた人間が社会復帰する時に頼れるのは家族だけだ、その家族が受刑者を見捨ててもいいのかと」

「僕が結婚していなければ、そして娘がいなければ、もしかしたら別の道を選んだかもしれません。でも、僕には新しい家族がいるんです。罪を犯した兄と何の罪もない妻子、この二つを救おうとしたのが間違いだったと今は思っています」

「君は何も間違ってはいないよ。人間として正しくあろうとしただけだ。でも実際のところ、何が正しいかなんてことは、誰にもいえんのだよ。さっき君がいったようにね。ただ、これだけはいっておこう。君が選んだ道は、簡単な道ではないよ。ある意味では、これまでよりももっと苦しいかもしれん。何しろ、正々堂々、といった旗印がない。すべての秘密を君が一人で抱え込み、仮に問題が生じた場合でも、一人で解決しなければならないんだ」

と答えます。 

 

兄が弟を思う気持ち。

弟が受ける社会的差別。

兄が弟に書く手紙の数々。

弟を支える彼女の誠意。

弟が兄にあてて書く「断絶」の手紙。

最後、弟が被害者に謝罪に行った際に知った事実。

 

読む価値ありだと思います。