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完全数 「博士の愛した数式」小川洋子

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完全数、なんて素敵な響き

「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた。記憶力を失った博士にとって、私は常に「新しい」家政婦。博士は「初対面」の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりにも悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。

 

数学の深遠さと、人の繊細な心の描写を両立させている奇跡の一冊。私のような貧乏性にはとても嬉しい本です。

 

博士の数学論をいくつか紹介します。

 

数学は人間が発明したものではない。人間が生まれるずっと以前から、誰にも気づかれずそこに存在している定理を掘り起こすんだ。神の手帳にだけ記されている真理を、一行ずつ、書き写してゆくようなものだ。その手帳がどこにあって、いつ開かれているのか、誰にもわからない。

 

人間が発明したのなら、誰も苦労はしないし、数学者だって必要ない。数の誕生の過程を目にした者は一人もいない。気が付いた時には、もう既にそこにあったんだ。

 

数学雑誌の懸賞問題を解くことについて

こんなもの、ただのお遊びにすぎない。問題を作った人には、答えが分かっている。必ず答えがあると保証された問題を解くのは、そこに見えている頂上へ向かって、ガイド付きの登山道をハイキングするようなものだよ。数学の真理は、道なき道の果てに、誰にも知られずそっと潜んでいる。しかもその場所は頂上とは限らない。切り立った崖の岩間かもしれないし、谷底かもしれない。

 

数学とは、神様が作ったものだといいます。数学者はそれを発見するのが仕事なのだと。「何言ってるんだか」と思いましたが、この本に登場するいくつかの事例を知ると、納得です。

 

完全数って知ってますか?

約数を全て足すと、その数自身になる数のことです。一番小さい完全数は6。次が28。その次が496。

6=1+2+3

28=1+2+4+7+14

496=1+2+4+8+16+31+62+124+248

もう一つの完全数の性質は、「連続した自然数の和で表すことができる」です。

6=1+2+3

28=1+2+3+4+5+6+7

496=1+2+3+4+5+6+7+8+9+10+11+12+13+14+15+16+17+18+19+20+21+22+23+24+25+26+27+28+29+30+31

これは、すごい、トリハダものです。まさに、神様の手帳に書かれている美しい調べ!この完全数について教えてもらった時のことを、家政婦さんの言葉を借りて小川さんはこう表現しています。

 

博士は腕を一杯にのばし、長い足算を書いた。それは単純で規則正しい行列だった。どこにも無駄がなく、研ぎ澄まされ、痺れるような緊張感に満たされていた。アルティン予想の難解な数式と、28の約数から連なる足算は、反目することなく一つに溶け合い、私たちを取り囲んでいた。数字の一つ一つがレースの網目となり、それらが組み合わさって精巧な模様を作り出していた。不用意に足を動かし数字を一つでも消してしまうのがもったいなくて、じっと息をひそめていた。今、私たちの足元にだけ、宇宙の秘密が透けて浮かび上がっているかのようだった。神様の手帳が、私たちの足元で開かれているのだった。

 

完全数は、まだまだあります。496の次は、8128、33550336、8589869056…

 

博士は阪神のファンです。江夏がお気に入りで、その江夏の背番号が28です。博士の記憶はずいぶん昔の事故でとまっていて、博士は今でも江夏が活躍していると思っています。この作品の設定は1992年。阪神が1985の日本一の後、長い低迷期から脱出し優勝に手が届きそうになった、あのシーズンです。亀山が大活躍したあのシーズンです。私はその年の秋、学生でした。にわか阪神ファンになり(はやりものにのっかる、学生ってそういうものでしょ)、神宮に見に行きました。懐かしいです。あれから20年(涙)。 

この作品の初版は2003年。ちなみにこの作品、第1回本屋大賞受賞作品です。 

 

 

 

 

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