読書生活 

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高熱隧道 心にゆとりがあるときにどうぞ

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160℃の岩盤を破壊するために

 昭和14年ごろ、地下にトンネルを掘る話です。まず下に掘り、そのあと横に掘ります。そこそこ順調に工事は進んでいったのですが、最難関区間にてこずります。

 まず、そこまで行くのが難しい。下に掘る場所を選定したのでが、そこに行く道がない。切り立った崖を削り、数十センチの幅の道を作り、そこを荷物を持って通ります。滑るし高いし風は強いし、何人も落ちるわけですよ。落ちたら死にます。何人も落ちて死にます。

 ようやく現場にたどり着き、下に掘り、そして横に掘る。横への掘り方は、岩盤にダイナマイトを入れる穴をあけ、そこにダイナマイトを入れ爆破します。がれきをトロッコに乗せて外に運び出す、こういう手順です。さあ、横に掘り始めましょう。最初は「暖かいな」というくらいだったんです。ところが、途中から「暑いぞ」となり、岩盤の温度を測ったら60℃くらいありました。そりゃあ暑いはずです。学者の調査では、この温度がマックスであとは下がるだけだよ、ということだったので、隊長はそのまま掘り進めるよう指示を出します。そのうち、「熱!」となり、全身やけどで水膨れになる人夫が続出。熱くて岩盤に近づけないぞ、と人夫は労働を拒否します。金は出す、がんばれ、温度は下がるから、と必死に励ます隊長。しかし、無情にも温度は上がり続けついに160℃を超えます。そして、その熱でダイナマイトが爆破。何十人もの人夫が爆死します。ばらばらの遺体を集め、それを遺族に引き渡す隊長。泣きじゃくる遺族を見て、ますます人夫は働かなくなるわけですよ。

 そのうち、県警から「そんな工事はやめろ!死にすぎだぞ!」とストップがかかります。工事はストップ。隊長たちは考えます。160℃の岩盤を安全に破壊し穴をあける方法を。まず、隊長たちは当時の最先端の学者数名に意見を求めに行きます。当時はメールなどありません。直接出向くわけです。数名の学者さんに話を伺いに行きました。しかし答えはみな同じです。「それほどの高熱に耐えられるダイナマイトの開発は、今の技術では無理」とのこと。困った。

 ここでやめたら、それこそ今までの工事はすべて無駄になります。山を下りて会社は倒産し、無職となります。人夫たちはそれでもほかの仕事をまた探せばいいのですが、隊長たちは困ります。そこで隊長たちは、頭をひねってこの問題をクリアします。では問題です。この方たちは、どうやってこの問題を解決したのでしょうか。

 問題を整理しましょう。二つあります。まずは、「160℃の岩盤の前で作業する時間をどう確保するか」です。近づくだけではいけません。穴をあけ、ダイナマイトを入れる作業をする最低限の時間、その場にとどまらなくてはいけません。触って帰ってくる、という短時間では問題の解決になりません。もう一つは、「穴にダイナマイトを入れて、すぐに爆破させないためにはどうしたらいいか」です。160℃に耐えられるダイナマイトは当時ありません。

 

 とてもアナログな方法で、強引に解決します。一つ目の「160℃の岩盤の前で作業する時間を確保するか」。人夫に冷水をホースでひたすらぶっかけ続けるという方法をとりました。最先端部にいる人夫に冷水をかけるためにホースを引きました。しかし、この、ホースをもって水をかける人夫も熱くて倒れてしまいます。そこで、このホースを持っている人夫にも水をかけます。ホースを引いて、また引いて、ホースリレーです。気合いですね。その水、最先端部では一瞬で蒸発してもうもうとするんです。

 二つ目の「穴にダイナマイトを入れて、すぐに爆破させないためにはどうしたらいいか」。入り口付近に冷凍庫をセットし、そこでダイナマイト型の氷棒を作り、できたその氷棒をダッシュで最先端部まで運び、ダイナマイトを入れる穴に差し込みます。一瞬でその氷棒は蒸発するのですが、穴の温度がしばらくの間、数十度下がるわけですよ。そこにすかさずダイナマイトを差し込みます。しかし、これでも危険です。そこで、あと一工夫します。そこは読んでください。

 吉村昭さんという方の作品です。司馬さんと同時期の作家さんです。もうお亡くなりになられております。歴史小説を多く書いていることや、膨大な資料を集めそれをもとに史実を忠実に再現しようとする姿勢など共通点が多いです。司馬さんは、「余談だが」が特徴の一つで、考えを登場人物に語らせるだけでなく、ストレートに自分の考えを述べたりしますが、吉村さんにはそれがありません。しかし、その作品は魅力的で最後まで読ませます。その魅力を、このブログでこれから解明できたらいいなと思っています。

 この工事では、雪崩なども含め300人以上が犠牲となります。ご冥福をお祈りします。